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大阪地方裁判所 平成4年(行ウ)18号 判決 1992年10月02日

原告

東昌夫

右訴訟代理人弁護士

三木一徳

杉山彬

河村武信

大江洋一

岩嶋修治

城塚健之

田島義久

脇山拓

被告

羽曳野市長

福谷剛蔵

右訴訟代理人弁護士

俵正一

重宗次郎

苅野年彦

草野功一

坂口行洋

寺内則雄

小川洋一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成四年三月三一日付でなした地方公務員法五五条の二に基づく専従不許可処分を取消す。

第二事案の概要(争いのない事実等)

一当事者の身分等

1  原告は羽曳野市に勤務する職員であり、地方公務員法(以下、地公法という)五三条の登録職員団体である羽曳野市職員組合(以下、市職組という)の組合員にして、その執行委員である。

2  市職組は、羽曳野市職員労働組合(以下、市職労という)職員支部であり(<書証番号略>)、羽曳野市役所本庁に勤務する非現業職員によって組織される職員団体である。

3  市職労は同法五三条の登録を経ていないが、市職組は同年一月一八日羽曳野市公平委員会に登録された(<書証番号略>)。

4  市職労は、昭和三五年以来、旧大阪衛星都市労働組合連合会(以下、衛都連という)・現大阪自治体労働組合総連合(以下、労連という)に加盟している。

5  被告は、平成元年四月、羽曳野市長選挙において、いわゆる革新系前市長(以下、前市長という)を排して当選し、同市長に就任した。

二原告の専従休職申請と不許可

1  原告は、平成四年一月一六日被告に対し、同日から同年一〇月三一日まで、同法五五条の二第一項但書のいわゆる専従休職許可申請(以下、本件申請という)をしたところ、被告は同年三月三一日許可しなかった(以下、本件不許可という)。

2  本件申請の理由は、原告において市職組の業務に専従するというのであるが、実質は原告が市職組において労連派遣役員として選出されたというにあり(<書証番号略>、証人塩野良一)、本件不許可の理由は、本件申請の目的が原告において労連の業務に従事するためであるということ及び行政遂行上に支障があるというにある(<書証番号略>)。

三羽曳野市における従来の組合専従の取扱

1  羽曳野市においては、市職労結成(昭和三四年)直後から被告市長就任に至るまで、職務に専念する義務の特例に関する条例の運用により、市職労の役員一名が専従休暇を許可されてきた。原告も、衛都連及び労連の業務に従事するため、前市長の許可を受け、同六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日まで、被告の許可を受け、同年一一月一日から同二年一〇月三一日まで、右条例による専従許可を取った(<書証番号略>)。

2  市職労は、同二年九月一三日被告に対し、労連派遣のため、同年一一月一日から同三年一〇月三一日まで、原告の専従休暇を申請したところ、被告は、同二年一〇月一八日、行政遂行上に支障があるとして専従休職不許可としたが、同月二三日、助役名で、同期間中必要に応じ右条例に基づく職務免除を与える旨通告した(<書証番号略>)。

3  市職労は、同三年一〇月一日被告に対し、労連派遣を目的とし、同年一一月一日から同四年一〇月三一日まで、原告の専従休暇を申請したところ、被告は同三年一〇月四日行政遂行上に支障があるとして専従休職を不許可としたが(<書証番号略>)、原告が同三年一一月一日から同四年三月末日まで専従休暇を取ることを黙認した(<書証番号略>、証人塩野)。

第三争点(但し、事実関係のうち○を付した部分は争いがない)

本件不許可に裁量範囲の逸脱、又は裁量権の濫用があるか。

一原告

1(一)  地方公務員の職員団体が自主性を保ちながら活動を展開していくためには、最低一名の在籍専従役員が必要不可欠である。したがって、地公法五五条の二第一項但書、第二項にいう任命権者の許可、不許可の裁量の範囲は狭く、登録職員団体の役員からなされる専従休職許可申請に対しては許可を与えるべく覊束されていると解すべきである。

(二)  羽曳野市においては、前記のとおり、長年月に亘り、市職労の役員一名に対し在籍組合専従が許可され、市職労の活動を支えてきたのであるから、市職労役員の在籍組合専従を許可すべきことは労使慣行として確立しているというべきである。

2  被告が、羽曳野市における右労使慣行に反し、本件不許可を行ったのは、もっぱら市職労を嫌悪、敵視し、不当に干渉することを意図したものであることは、次の事実によって明らかである。

(一) 被告は、市長選挙の際、反共キャンペーンの下に、市職労は共産党に私物化されている等と激しく攻撃した。

(二) 被告は、市長就任後、市議会において市職労を攻撃する発言を繰返し、職場においても同様の言動を行った。

(三)(1) 羽曳野市においては、市及び管理者当局と市職労との間で、組合役員の人事異動は事前協議する旨の協定が交わされ、前市長の下では遵守されてきた(○)。

(2) 被告は同二年四月羽曳野市水道労組副執行委員長・仲村高明を水道局から市長事務部局である下水道部水政課に配転した(○)。その結果、仲村は水道労組の規約により、同労組員の資格を喪失した。

(3) 右配転は事前協議協定に反する。

(四)(1) 市職労は昭和五八年以来、市当局の許可を得て市庁舎一階から四階に組合掲示板を設置してきた(○、但し、許可は三、四階のみ)。

(2) 被告は、平成三年三月九日右掲示板を撤去し、市職労の抗議を無視し、団交にも応じない(○)。

(五)(1) 羽曳野市においては、市職労役員による勤務時間内の職場オルグは正当な組合活動として、長年容認されてきた(○)。

(2) 被告は、同年一二月二日、市職労役員九名が、市当局において同年一一月二八日以降賃金確定・一時金要求等に関する団交を拒否していることにつき、職場オルグをしていたのを暴力で妨害したのみならず、同四年一月一七日、被告及び水道局長は、右市職労役員のうち、四名を文書訓告、四名を文書による厳重注意に付した(暴行の点を除き○)。

(3) 右処分は、被告が基本賃金、年末一時金の改善について団交を拒否したことに対し職場オルグをしたことを理由とするものであり、違法不当である。

(六)(1) 市職労は市当局との契約により、昭和四九年一月から市庁舎付属建物の一部を組合事務所等として使用してきた(○)。

(2) 被告及び市当局は平成四年三月一三日、市職労に対し、目的外使用を理由に同月一九日までに右事務所等の明渡しを通告してきた(○)。

(3) 市職労は右事務所等を目的外に使用したことはない。

(七) 被告及び市当局の意を受けた管理職等による一般職員に対する市職労脱退の勧誘及び第二組合の組織作りが行われ、平成三年五月以降市職労脱退者が相次ぎ、同四年三月一九日管理職を含む約二〇〇名からなる羽曳野市職員連合会が発足した(連合会の発足は○)。

(八)(1) 羽曳野市においては、職員の勤務条件に係わる事項については労使が合意の上実施する旨の労使慣行が成立している。

(2) 被告及び市当局は、右労使慣行に反し、形式上も団交を経ず、あるいは実質上団交を拒否し、一方的に、四週六休制に関する条例を制定(同三年六月)、土日開庁の実施(同四年四月)、基本賃金、年末及び年度末一時金の決定(同三年一二月、同四年二月)、新出勤システム(OAカード化)の導入(同四年三月)、育児休業条例の改訂(同年三月)を行った。

3  したがって、本件不許可は裁量範囲の逸脱、又は裁量権の濫用により違法である。

二被告

1(一)  地公法五五条の二第一、二項は、任命権者の許可により、職員が登録職員団体の役員として右職員団体の業務にもっぱら従事することを許容しているに過ぎない。本件申請は、原告において未登録団体である労連の業務に専従することを目的としているのであるから、同条項に該当しない。

(二)  右許可は、任命権者の自由裁量に委ねられている。

2  本件不許可は羽曳野市における保育行政上の必要性によるのであり、市職労及び市職組に対する不当介入を意図したものではない。

(一) 羽曳野市は、保育行政、特に現場における保育業務の充実のため、保父、保母職にある職員の保育現場への配置を積極的に推進しており、平成四年度の人事異動にあたっては、原告を含む保父職にある職員五名全員を保育現場へ配置することを決めた。

(二) 羽曳野市においては、長時間保育並びに四週六休制の変則勤務のため、臨時保母を多数採用しており、原告を保育業務から欠くことは保育業務に支障を来すことになる。

(三) 被告は、原告の同三年一〇月一日付専従許可申請に対し、原告を同四年度の人事異動にあたっては保育園へ配置換する旨等を伝え、同三年一〇月四日不許可とした。

(四) 被告は同年四月一日付で原告を保育園へ配置換した(○)。

3  したがって、本件不許可は正当な理由に基づくものである。

第四判断

一1  地公法五五条の二はいわゆる登録職員団体に属する職員の在籍専従を任命権者の許可に係らしめているが、右許可、不許可は同法に定める登録職員団体及び同職員の権利ないし法律上の利益に係わる行政処分たる性質を欠くものではない。

2  同条第一、二項が、原則として右専従を禁じながら、任命権者は右許可を「相当と認める場合に与えることができる」と定めていることに照らすと、右許可は任命権者が地方公共団体の事務の管理及び運営の観点からなす広汎な裁量に委ねられていると解される。いわゆる専従職員の存在が職員団体の運営にとって有益であることは一般論として是認し得るが、このことを前提としても、同条第一項は原則として職員の専従を禁止しているのであるから、同項但書の許可を職員団体における職員(役員)専従を置くことの必要性のみによって決することは許されない。

3 任命権者の行った不許可が、職員団体に対し不当に干渉する意図でなされる等、裁量権の範囲を逸脱し、又は権利の濫用に亘ると認むべき場合は、右不許可を取消すべきである。

4  同条第一項但書によって職員が職員団体の業務に専従することができるのは、登録職員団体(上部団体を含む)の役員としてもっぱら同団体の業務に従事する場合に限られ、未登録上部団体の業務に専従し、登録職員団体の業務に専念できない場合は本条の適用外である。

二被告は、原告は未登録団体である労連の業務に専従するのであるから、同条第一、二項の許可の適用外である、と主張する。

確かに、原告は未登録団体である労連に派遣されその業務に従事すると認めるのが相当であるが(<書証番号略>は信用し難い)、労連は市職労等傘下の組織の中枢としてこれを統括するのであり、労連の業務は市職労等の固有の業務と密接に関係していること、、証人塩野は、原告が、平成三年一一月一日から同四年三月末日まで専従休暇を黙認された間も、市職組には現れずもっぱら労連の業務に専念していたと言うが、同年三月三一日になされた本件不許可は原告が労連に派遣されその業務に就くことを唯一の理由とはしていないこと等に照らすと、原告において労連に派遣されることにより、市職組の業務に専念することの実質が失われるとは即断し難い。したがって、被告の主張は採用できない。

三本件不許可は裁量権の範囲を逸脱し、又は権利の濫用に当たるか。

1  原告は本件不許可は羽曳野市における労使慣行に反し、被告の市職労等に対する敵意、嫌悪に基づく不当な干渉であると主張するので判断する。

(一) 組合専従に関する慣行について

羽曳野市における市職労役員の組合専従は、従来、組合休暇(地公法三五条、職務に専念する義務の特例に関する条例)によって処理、運用されていたのであり(事案の概要三1)、これと制度を異にする同法五五条の二第一、二項の解釈、運用について何らかの労使慣行が成立していたと認めるに足りない。したがって、本件不許可が労使慣行に反するとの原告の主張は失当である。

(二) 被告の市職労等に対する敵意等について

(1) 原告主張2(三)(六)について

被告の措置が違法不当であると認定すべき証拠に乏しい。

(2) 同(四)について

<書証番号略>によると、市庁舎一階から四階のフロアにあった組合掲示板は、市当局と市職労間の昭和五八年合意に基くものと認められるから、市当局が格別の事情もなく一方的に撤去することは許されない。

(3) 同(五)について

市職労役員による勤務時間内の職場オルグが許容されないことは明白であり(地公法三五条)、これを許容する旨の労使慣行が成立する余地はない。そうすると、被告の行った処分が市職労等に対する敵意等の徴憑であると即断することはできない。

(4) 同(七)について

被告及び市当局の策謀により、市職労脱退者が相次ぎ羽曳野市職員連合会が発足したとまで認めるに足りる証拠はない。

(5) 同(八)について

地公法五五条第二、三項に照らすと、職員の勤務条件に係わる事項について労使が合意の上実施する旨の労使慣行が成立する余地はない。もとより、同条第一項は右事項を登録職員団体の行う交渉の対象としているところでもあり、右合意の成立は望ましいことではあるが、合意が成立するまで交渉を継続すべきであるとか、合意のない限り実施できないというものではない。原告の主張する事実のうち、条例に関する部分は、条例の制定、改廃が市議会の議決によることに照らし、独り被告のみの市職労に対する敵意等の徴憑であるということはできず、その他の部分も直ちに被告の敵意等を窺わしむるに足りない。

(6) 同(一)(二)について

<書証番号略>、証人片上吉彦によると、前記羽曳野市長選挙において、福谷陣営が反共キャンペーンの下に前市長及び市職労を激しく非難していたこと、<書証番号略>によると、被告は、市議会において、市職労の運動に対する批判を、不適切な表現(例、羽曳野市職員労働組合と称する団体、組合ビラは嘘のかたまり、市職労をキチッとした職員団体として指導する)をも交えて、再三繰返していること、<書証番号略>、証人片上によると、被告は職場オルグをした市職労役員に対し、過激な言辞で非難、糾弾したこと等が認められ、これらの事実から、被告の市職労に対する対決姿勢に尋常ならざるものを汲取ることはたやすい。しかしながら、そうであるからといって、被告の市職労及び市職組に対する施策、特に前市長時代と異なった対応の全てが、市職労等に対する敵意、反感に基づく不当介入であると認め難いことは、<書証番号略>及び前記(一)、(二)(1)(3)ないし(5)の説示に照らし、明らかである。

(三) そうすると、本件不許可が被告の市職労等に対する敵意等に基づく不当な介入を意図してなされたと断ずることはできない。

2  被告は、本件不許可は羽曳野市における保育行政上の必要性によると主張するので判断する。

(一) <書証番号略>、証人山上保によると、次の事実が認められる。

(1) 羽曳野市において保育業務の充実はかねてより重要な懸案であった。ところが、保育現場では、長時間保育並びに四週六休制の変則勤務のため、臨時及びパートの保母を多数採用している実情にあり、保母、保父職にある正職員を保育現場へ配置することが望ましいことであった。そこで、市当局は、平成四年度の人事異動にあたっては、原告を含む保父職にある職員五名全員を保育現場へ配置し、保育業務に従事させることを決めた。

(2) 被告は、原告の同三年一〇月一日付専従許可申請の際、原告を同四年度の人事異動にあたっては保育園へ配置換する旨を伝え、不許可としたが、市職組の活動の便宜を考慮し、同四年三月末日までの専従休暇を黙認した。

(3) 被告は、(1)の方針に従い、原告を同年四月一日付で保険福祉部児童課から保育園へ配置換した。

(二) 右事実によると、保父職の正職員である原告を保育現場へ配置換し、保育業務に従事させることには相応の合理性があり、右が原告の専従休職を阻止するための人事異動であるとは認め難い。

3 以上を総合すると、本件不許可が裁量権の範囲を逸脱し、又は権利の濫用であると認めることはできない。

四よって、原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官蒲原範明 裁判官黒津英明 裁判官岩佐真寿美)

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